『わたしの好きな人』




『私には好きな人がいます。その人は同じ学年で、幼稚園のときから一緒にいます。友人には幼馴染に恋とかどんだけだよお前とよく言われますが、好きなものは好きだから仕方が無いと思います。中学一年の折り、私はこの恋を、出来る限り秘めておこうと考えていたのですが、私は一説によると非常に顔に出るらしく、気付いたら周囲にはバレバレでした。どうせなら本人に気付かれればいいのに、頭いいのにバカで、面倒見いいのに鈍くて、その人だけが気付いていません。一体どういうことなんでしょうか、責任者出て来い。

私の好きな人はそれなりに格好いいです。というか高校に入ってから急速に格好良くなりました。それまではちょっとぽにゃっとしてて、可愛い感じだったのに。お陰で女の子にも、それなりにもてます。本人も女の子が好きです。よくメアドきかれて、男っぽくて面倒見いいので、すぐ付き合い始めます。でもすっごい妄想癖持ちだから、結局一ヶ月持つか持たないかで別れてます。だったら付き合わなきゃいいのにと私は思います。後輩も「また先輩が恋に破れた。学習しないのか」ということを言っています。後輩でもわかることが、どうして本人にはわからないんでしょう。

一週間ほど前のことです。同じクラスの次屋くんと神崎くんが、私の悲劇的な片思いを見かねた、などと痴れ事を吐いて、相談に乗るという名目で、三人で駅前のファミレスへ行きました。神崎くんはハンバーグとドリンクバー、次屋君はドリンクバーとデザートバーとねぎとろ丼を頼みました。相談に乗るのだからといわれて、私のおごりでです。信じられません。私のなけなしのバイト代は二人の胃の中に消えました。特に次屋、お前は自重を覚えろ。デザートバーてお前。と思いましたが、ちょうどそのときは私が精神的に大変荒れていた時期だったので特に文句も言わず、ドリンクバーで頑なにレモンティーばかりを飲みながら机に突っ伏して唸っていました。「お前も損な性格だよなあ」と次屋は言いました。ウェイトレスの美人なねえちゃんがチョコパフェを食す次屋のことをちらちら見ていました。次屋はイケメンらしく、学年では一番もてます。次屋の彼女は学年で一番可愛い亜子ちゃんという子です。イラッとした私は言いました。「彼女が可愛いからって調子乗ってんじゃないよ!」すると次屋は「ホント可愛いよなあいつ・・・すげえよ。つーかあんな可愛い子が俺のことすきって凄くね?俺が」と言いました。神崎はハンバーグの目玉焼きを一口で食べていました。私はありえない破壊衝動に教われました。私は普段、非常に温厚で、こういう物騒なことはあまり言いたくないのですが、そのとき感じた殺意は本当に本物でした。死ね、次屋。死んでください。

話がそれました。さて、ファミレスでまとまったことは、多少強引なぐらいじゃないとあの男に私の思いは気付いてもらえない、ということでした。なにせ私たちは幼馴染。実はもっとも攻略が難しい男女関係なのです。正直、あの男が新しい女連れてくるたび、あいつの金玉握りつぶしそうになる自分がいる、と次屋と神埼に告げると、神崎は、「迷うな!」と言い、次屋は、「その調子だ。もうこのさいヤンデレぐらいじゃないと気付かねえよ」と言いました。他人事だな貴様ら。三人分の支払いをしたら、今月はもう酢昆布しか買えないことになりました。ホント死ねばいいのに、と思います。

さて私はたかが相談?相談かこれは?に5千円も使ったわけで、無駄にするわけにはいきません。庶民の財政は厳しいのです。というわけで富松作兵衛、他所の乳ばっかでかい女に気を取られてないで、私と結婚を前提にお付き合いしてください、でないとお前の金玉握りつぶしますよ。以上。2年B組 





「お前授業中に金玉って二回も言った女が付き合ってもらえるとか思ってんの!?」
「良かったじゃん作。もう振られたり妄想したりしなくて済むぞ」
「そうよ。だめなの?」
「・・・・いや、・・・だめじゃねえけどよ・・・」
「つーか誰か救急車呼べー。土井先生が泡吹いて倒れたぞー」




(青春はうつくし)