よくもまああそこまでわかりやすく落ち込めるものだと思う。食堂の隅の席でまるで明日世界が終わるのだと聞かされたみたいな悲壮な顔をしている同年のお馬鹿さんはひとりきり(これはいつもか)で自分の周りに円形の空席をつくりながら(だいたいこれもいつもか)魚をとても綺麗に毟って小骨の一つ一つまで除きつつ口に運んでいた。あの端麗な容姿にそういう所作は大層似つかわしく美しいのだけれど、表情が表情なのでいただけない。飢饉の村で人肉でも食べてるみたいな。まったく性格が破滅的なのだから見た目にはもっと注意して欲しいものである。してるつもりなんだろうけど。まあ、あんな表情をしていたって美人には代わらないのも、事実だ。
注文したランチのトレーをおばちゃんから笑顔で受けとって、私は酷く重たげな影を背負う背中をばんと殴ってから向かいに腰掛けた。がちゃんと陶器を打つ音がする。衝撃で味噌汁に顔を突っ込んだ滝夜叉丸は不可思議な色の雫を顎から垂らしながら上目遣いに私を睨んだ。なんだか泣き出しそうな顔をしていた。覗いた舌は艶かしい。ひとと化生の者のあいのこのようでとてもきれいだ。
「・・・私の美しい顔になんてことをするんだ
「滝はどんな顔をしていても大体綺麗よ。大丈夫」
「そんなことは知っているが!違うだろうそうじゃないだろう!謝れ!」
「滝はボケなんだから突っ込みすんのやめな。へたくそ」
「この滝夜叉丸に出来ないことなどない!」
その突っ込みどころ自体ものすごいずれてるけど。そうですか。と、ひとつぽつんといってこんがり焼かれた秋刀魚に箸をつける。私は滝のようにうまくは食べれない。箸先で背を破るのに苦闘していると、台詞を流されて打ちひしがれていたらしい滝は少しだけ元気になって「まったくは駄目だな。そんなことでは嫁にいけないぞ」と笑い、魚の皿を奪って代わりに毟り始めた。きっと厳しくしつけられたのであろう、それはもう流麗な所作で。もちろんそれが狙いだった私は、魚が美しく解体されていく様をぼうと眺めている。「ああ、お腹がすいた。」私が呟くと箸先は動く速度を上げる。こいつは絶対実はへたれタイプ。期待されると弱いタイプ。 そんなわけで骨もはらわたも除かれ大根おろしと醤油をかけられた光り輝く焼き魚を前に私はとても嬉しくなって、にっこりすると滝はむんと胸を張った。
「ありがと滝。美味しいね」
「当然だ!この私がー」
それからまたぐだぐだと自慢話が始まる。私は滝のむしった魚を口に運びながらそれを聞いている。平和だ。向こうのほうに綾部が見えた。心なしかしょんぼりした顔をしている。二人は年に二回ぐらい喧嘩をするが、どうやらこんどもそれらしい。私はにっこりして、滝にわからないように指先で手招きをした。


(笑顔が似合うよ)