説明しようッ!せがれいじり!それはうちにある只一つのゲームソフトである!と元気よく語ってみたはいいですが、対応機種がプレーステーションである時点でテンションもダダ下がりというものでありましょう。PS2でもPS3でもPSPでもXBOXでもなくただのプレイステーションです。元の所有者は父親で、今彼はPS3で戦国BASARA3とかやって最先端を走ってますが、娘の私はプレーステーション。家庭は世間を反映します格差社会。非常に古いため接触が悪いのか、立ち上げに時間かかりまくりですがもしかしたらソフトの方に問題があるのかもしれません。このせがれいじりというゲーム、発売されたのは1999年、購入店は海外のしょぼい中古ゲーム屋だもの。諸行無常。経年劣化。CMキャッチコピーは「プレゼントに最悪。」だそうです。小学5年生の私の誕生日に中古のゲームソフトを渡した父がそう言ってました。これほど的を射たキャッチコピーも珍しかろうと私は思います。だってゲームの内容はせがれをいじるだけですよ。せがれというのは男性器ではなく矢印の形をした主人公で、これを操作して不思議なものが一杯の世界を探検、探索し、アイテムに接触して作文などの課題をこなしつつゲームを進めていくんですよ。そんなせがれの目的はピンク色の矢印の形をした娘さんと結婚することです。わかりますか?わかんないですよね。私もわかんないもん。このゲーム(中古)を誕生日に渡された小学5年生の困惑と絶望とその後にやってきた虚無感を察してほしい。というかこんなゲームを海外で売るほうがおかしいと私は思うんですよ。案の定捨て値でしたけど。捨て値の誕生日プレゼントでしたけど。笑えない。


そんな呪いのゲームを引っ張り出してきて現実から目を逸らそうとした、根性が既に腐っていると今では思う。恥の多い生涯を送ってきたよね。昨日の夜大人しく寝てればこんなことにはならなかったのにね。後の祭り。こちら現在午前9時20分です。コントローラー握ったまま寝てました。はい。どう見ても寝坊です。カーテンの向こうから流れてくる朝日が目に痛い。ついでに画面に静止したままのせがれとせがれの母親らしいキリンの首も目に痛い。新着メールを知らせる携帯のランプも目に痛く、震える手で開いたメールに突きつけられた事実は私を遂に奈落の底につき落した。


財前光
Re:
――――
何してんねんお前




瞬時に頭の中は真っ白。そーだよ朝練サボっちまったああああああああああああああああああ無断欠席かああああああああああああああああ財前先輩こわいよあああああああああああああああああああああああああ。どうしよう・・・!落ち着いて・・・落ち着け・・落ち着こう・・自己暗示をかけつつ取り敢えず電話して謝ろうとした直後、待ちうけ画面の下部に不在着信27の文字を発見し、財前先輩電話しすぎだろ、と思って開いたのですが。


遠山金太郎
遠山金太郎
遠山金太郎
白石蔵ノ介
遠山金太郎
遠山金太郎
白石蔵ノ介
遠山金太郎
遠山金太郎


これなんてホラー?体験したらわかると思いますがマジ怖いですからこれ。あまりにもな恐怖にガチ泣きした私は泣きながら風呂場に直行し頭から水を被ってなんとか平常心を取りもどし、大人しくお湯を出してシャワーを浴び、ぐしゃぐしゃに脱ぎ捨てた制服を着なおしてから再び携帯を取った。直後に着信が鳴り、心臓が破裂しそうになりながらディスプレイを見ると表示されていたのは白石先輩のお名前。一瞬躊躇ってから通話ボタンを押すとスピーカーからは呆れたような声が聞こえた。


「やっと出よった」
「すいませんっ・・・あの財前先輩は」
「財前?朝練か。そっちはまあ一日ぐらい大丈夫やろ。アカンのは金ちゃんのほうやで。君がまた逃げよったてキレて」


寝坊やろて言うても聞かへんねん、とのほほんとした口調でおっしゃいますが、私は人生オワタ\(^o^)/だよ。くらくらして壁に寄りかかって受話器を持ち直したが精神のほうは持ち直せず、「えっと・・・どのぐらいキレてたかドラゴンボールで表してくれませんか・・・」なとという超くだらない質問をしてしまった。

「せやな。太った魔人ブウを体内から取り出されてちっちゃくなった魔人ブウぐらいや」


お前も答えるなよ!もう!ほんと残念なイケメンだな!しかもその喩え怖すぎるだろ!いきなり地球を破壊しようとする魔人と同レベルだと?血の気が引くのを感じながら額を押さえ、取り敢えず今から学校行きます、と呻くように呟いて電話を切った。電源ボタンを押す直前に白石先輩が何か言いかけていたような気がしたがそれどころではない。兎に角急いで学校へ行って釈明しなくては命が危ない。時間割もろくにそろえないまま鞄を掴んで靴を突っかけ、鍵を開けたそのときにドアのチャイムが鳴った。


ノブを捻る前にドアが開いた。赤毛だと認識した瞬間身体に衝撃が走り、板張りの床にしたたか背中を打ち付けて目の前には酷く怒った、そのわりになんだか頼りない表情の遠山金太郎。その向こうに黄ばんだ天井。支えるもののいないドアが空しく閉まって、ひどい音を立てた。そういえば白石先輩は金太郎が向かってるから家にいろと言ったのかもしれないな、と妙に平静になってしまった頭で思った。金太郎が乗っかっているので腰の上が重い。ちょっと前にもこんなことがあったなあ。でも地面に草が生えていてクッションになってくれたのであんまり痛くなかったのだ。今度は板張りの床なので肩甲骨のあたりが物凄い痛い。痛い、けど、金太郎のほうが痛そうな顔をしていて、私は文句も言えなかった。


金太郎は優しくないとあのとき私は思ったのだけれども、そして私も優しくないと思って、類友であると思ったのだけれども、どうだろう。ひょっとすると私のほうが優しくないかもしれない。だって金太郎は本当に悲しそうなので。私はこんな顔をしなければならないようなことを金太郎にされたことはない。反射的に手を伸ばすと触れた頬がびくりと震えた。常より低い声が噛み締められて赤くなった唇から零れる。


「・・・逃げへんて言うたやろ」
「だ・・から今から学校行こうとしてたんじゃん・・・」


咳き込みながら反論すると金太郎はじとりと私を見据えたあと、ふっと力を抜いて崩れた。私の上である。赤い髪が首に当たってくすぐったい、というか、心臓の音がダイレクトに聞こえて顔が熱くなった。あの、みなさん、お忘れかと思いますが、私普通の女子中学生ですから。気になっている男の子に、そいつがいくら普段からスキンシップ過剰で、しかも年齢に不相応なことまでやらされていようとも、こういうことされると、普通に照れるわけなんですよ。「めちゃめちゃ心臓はやいで」と金太郎がなんでもないことみたいに低いトーンで言ったのが物凄く恥ずかしく、金太郎につぶされていないほうの手で顔を覆った。玄関先で何やってんだ私たちは。


「何で遅れたん」
「・・・寝坊です」
「何で今日やねん」
「ほんとですよね・・・」


金太郎は私からするりと降りて身を起こした。私ものろのろと上体を持ち上げる。背中は絶対にあざになっているだろう、とても痛い。こいつと一緒にいると生傷耐えないな。金太郎は何故だか正座で私をきっと睨んでいて、なんだろうか、まだ何かあるのか。取り敢えず学校行こうよ少年。鞄に伸ばした手が握り止められ恐る恐る見たら、つり気味の大きな目の中に自分が映っているのが見えてまたも赤面させられた。なんという間抜け面でしょうか。身を引いても背後が壁の狭い玄関で救えない気持ちになりながら「なんですか、」と尋ねたら、金太郎は左手を壁について私の退路を断ってしまった。握ったままの右手は熱い。瞳に色がうつらなくてよかった。こんな顔色絶対見たくない。


「好きや」


前にも聞いたよ。だから、それ、なんて反応したらいいのかわからないのですよ。困り果てて取り敢えず頷いた私を金太郎は許さず、頬を膨らませてすねたように、「全然わかってへんやろ」と言う。いや全然わかってないのはあんだだろ。煩い心臓を押さえつけてどうにか、あんたはわかってんの、と返したら、金太郎は何をあたりまえのことを、とでも言わんばかりの顔で頷いて、


「一生一緒におりたいっちゅーこっちゃ!」


なんて言うので、私は石化して一切の思考を停止、緊張も羞恥もすっとばして、気が付いたら「あ、私も」と答えていた。金太郎が物凄く嬉しそうだったのでまあこれはよしとする。問題はその後。呆然とこいつもしかして私よりずっとわかってるんじゃないのかな、とか物思いに耽りながら金太郎に手を引かれて学校へ行き、クラスに到着した段階で自分が今非常に危うい行動(例:金太郎と手を繋いで登校)をしていることに気付いたのだが、その後男子が何で手繋いでんねん、と囃したてた時、金太郎が満面の笑みで「はわいの嫁やねん!」と叫んだので、私は即刻廊下に膝を付いてクラスの女子全員に土下座で謝罪するしかなかったのでした。マジすいませんでした!!








結局ボーイ・ミーツ・ガール